反日常系

日常派

誰かの言葉で自分が決まっていく

 入院したいとの思いが入院しなければとの思いになり、閉鎖病棟に電話をかけたところ、通院先に相談してみてくださいと言われた。そりゃそうか。頭が動かないので、そういうよく考えればわかることをよく考えれないために分からないことがよくある。その度に自分の頭が動いてないことだけを把握して、その次にまた同じところで蹴躓く。

 通院先に電話をかける。担当医が月火水しかいないので月曜日に予約を取る。

「どのような症状ですか?」

希死念慮です。あと飲酒したり」

「それだけですか?」

「あ、あと過量服薬も」

 嘘である。

「たくさんお薬飲んじゃったんですか?」

「はい。と言っても少しですけど」

「はい」

「そうしてると市販薬過量服薬して閉鎖病棟に救急搬送されることにつながるのが多いので……」

「そうですか……」

 嘘をついたのは、自分の思いが軽く思われるのではないかとの思いだった。軽い症状だと入院できないのではないかとも思った。しかしよく考えれば軽い症状の人しか解放に入院しないのでは……? いったいどっちが正解なんだろう。入院までに時間がかかるだろうけれど、早めに入院の用具をリストアップした。今回は最長期間居ようと思った。すぐに自分の気持ちは変わっていってしまうのに。嫌なことを忘れる期間が必要なのだと思う。入院したいと思うのが思ったよりも早かったので、部屋の中から退院証明書を探し出した。退院してから三ヶ月以内に違う病院に入院する時に、紹介状の役割を果たすものだ。おととしの退院証明書もあるので、中身を確認しようと、封を破り、中身を読んだ。f:id:freak_tanatra:20190223133400j:image

 ん? 見慣れない病名がある。統合失調症……? いやいや、と思っていたが、その字を見てくるとなんだか笑えてきて、最終的にゲラゲラ笑った。もう躁鬱で統失とか無理だろ。無理すぎて笑えてきてしまった。恐らく、搬送されてきた時に幻覚を見ていたからではないかと思うけれど、最近幻聴がするのも確かだった。それが寝起きに多いため、寝ぼけているだけかと思っていた。とりあえず、「寝起き 幻聴」で検索をかける。

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 よかった〜。薬物の可能性もある〜。

 よくない。検索すればするほど統合失調症の文字を見る。しかし人の声であることは少ないからやはり違う気がするのだが……。とりあえず主治医に聞いてみようと思う。うつ病から始まって、躁鬱になり、そこから統合失調症になったとしたら、病名のデパート病の海(やまいのうみ)である。流石にキツすぎる。なるべく現世や世俗に留まっていたい。妄想や幻覚に引っ張られたくない。今日は深夜に鳴ったチャイムで起きた。不安になって覗き孔を覗くと誰もいなかった。

入院したい

 精神科に入院すると入院オタクみたいな人が一人はいて、そういう人間にはなるまいと強く思うのだが、最近は辛い時に入院したいと思っている自分に気づかざるを得ない。最近は辛いことばかりで、外に辛いことがなければ絶えず自分が自分の粗を探して辛くなるだけ。世間はそれを想定する人間の妄想だから、世間に扮装した自分にひどく言われている。病院で「外に出ると息が詰まるんです。喉が絞められたように絞られ、鼻で息をすることが困難になり、その後に口での息が浅くなります」というと、それはストレス性のヒステリー球と呼ばれるもので、ストレスを感じると喉が締まることがあると言う。外に出るだけで過大なストレスが溜まっているのか。いよいよ、生活が困難になってきた。それも、外因ではなく内因なのだから、滑稽としか言いようがない。

 ここ最近夜になると、市販薬か入院のことしか考えていない。朝になるとすべての気分がリセットされるのだが、それすら自分が白痴に見える一因になり、また、明日の自分にさえ軽んじられるのなら、自傷と言う形で痕に残して態度を示していたくなる。なるべく死にたくない。なるべく病院から出られないような生活はしたくない。そう考えると、任意という形で入院した方が良いのではないかと思えてくる。入院という形でないと生活ができない。自分が生活を行使せず、人に任せていたい。実家は繭にはなりえない。自分の部屋も繭になりえない。生活力の欠如が生活自体を外敵にしてしまう。

 

 最近、ポール・オースターの『空腹の芸術』というエッセイを読んだ。クヌット・ハムスンの『飢え』を題材にしていて、その作品では、物書きを目指した少年が自分で選んだ断食のために文章を書くことができないという、自由意思での断食と芸術がテーマとなっている。オースターはそこから芸術論を繰り広げるのだが、ぼくが心打たれたのは、主人公が苦しむのは苦しむことを選んだからである(ゆえに同情はできない)と言ったこと。もうひとつは、断食を(達成すれば死んで断食が終わってしまい、達成できなくても断食が終わってしまうため)解決されない矛盾のある行為、つまりは絶望であると言い、自己破壊的な情熱が自分を破壊できないがゆえにさらに絶望するという部分だった。飢えを自傷に変えれば今でもよく見かけることだ。同情さえされず、絶望が自分を食らっては食い残し、一人で自分を食い尽くせないことに不満ばかり立てている。生活を用いた自傷を繰り返している。

視野半径二時間

 前にもつけた題名をもう一度冠す。病気が良くなることはなく、かと言って悪くなることもないという形での悪化の一途を足取り重く進んでいる。

 相も変わらず二時間前と二時間後が断絶したような生活の中で、気分の様変わりに右往左往している。外に出て、次の季節を感じると、半径二時間の視野で遠くの景色を見れた気になって内心ではしゃぐ。薄手のアノラックでも寒くない日だったとか、エアコンをつけないでも過ごしやすかっただとか、三日後に元の気温に戻る朝三暮四に騙されても、一時的でも気分が上がればそれが真だ。狭い思考に一喜一憂しながら、それでも長期的な目線を持とうとしてる。

 カウンセリングは何回通っただろう。一度出来上がった思考を矯正するために、自分を一度焼いては叩いて試行錯誤してる途中。夏になったら少しは変わってるかなと思う。期待で遠くばかり見てる。近くに来てはつまずく。夏になって秋を待っているだろう。その頃には髪も伸びて、三時間後の自分くらいは予測できているだろうか。

深夜日記

 生活に嫌気が差すと、当たり前のことながら、生活を直視したくなく日記が書けない。こんなものは褒められるために書いているのではなく、粗を露呈するために書いているのだという気分になる。誹謗中傷されるために書いているのだとさえ思う。そもそもが人様には胸を張れない生活だ。ない胸を張って、切ったり張られたりしないことを祈るのみ。

 夜が明けてきている。この時間が好きでも嫌いでもないが、よく目にする夜明け前の藍色に対して、よく目にするがゆえの気を許すような寝ぼけた顔でぼんやりとカーテンを開ける。ここ最近、うまく眠れない。日付が変わる前に寝て、一時か三時には起きる。そのまま眠れないことを察知しながら、様々な呼吸法を一通り試し、眠れないことを結論付ける。それから布団を飛び出して、何をするでもなく食パンをモソモソと食べながら、カーテンの隙間からカーテンを開ける瞬間を待つ。この瞬間は人生みたいだ。思ったのとは違う瞬間にスタートを切らされて、これからに何かあると思って、今現在はなにするでもなく待っている。

 夜明け前の色は、閉鎖病棟を思い起こさせる。保護室ではカーテンすらなかった。病室に移ってからも、起きてしまうのでカーテンを開け放しにしていた。だんだん暗闇から明度の高いブルーになる瞬間。そこに救急車の赤色灯が回転しながら入ってきたりするといいのになあと思いながら、外を眺めている。なにかをしなければならないのに、今はまだしなくていいと、自分に都合のいい時間帯とぬるく付き合っている。暗く長いモラトリアムが明度を増すのはいつなのだろうか。食パンを食べながら待ち望んでいるというのに。

明滅のワルツ

 たぶん数年前に書いたままだった小説を載せます。ここにも載せた記憶があるのに、記事が残ってませんでした。

 

 

明滅のワルツ
 クリスマスの飾り付けが明滅を繰り返している。一つだけ、他とは遅れたり早くなったりを繰り返しているものがある。他が押し黙ったように暗い時に、やけにそれだけが光って目立つ瞬間がある。さらによく見ていると、ほかの飾りが四分の四拍子、もしくは二分の二拍子で動いているのにも関わらず、目立つ電球は三拍子だったり、七拍子だったりするように思える。規則性がわからない。万華鏡をのぞき込んだ時のように、綺麗で規則性があるということだけは分かるのだけれど、複雑すぎて言葉で表せられない時の感じ。

 街で唯一のクリスマスツリーとその前のカフェーはやはり混んでいた。クリスマスツリーの観衆に混じって観察するのにも飽きると、カフェーの中を横目で観察した。やはり高校生が多い。大学生もわずかながらいる。成人や社会人はほとんどいない。私はあなたに連絡してそこから二、三百メートルのジャズバーに行った。ここは穴場なのだ。マスターの意図によるものなのか(おそらく違う)いつも、私か、私を含め二、三人しかいない。今日は前者だ。手袋を擦り合わせるようにして脱ぎ、かじかんだ手でコートを脱いだ。私のいつもの席、1番端っこにコートや手袋を置く。
「寒いですね」
 暖炉に手をかざして顔だけをマスターの方に向けて言う。
「これからもっと! 夜になると雪がわさわさ降るようになる。この街の冬は慣れた?」
「いやー、慣れないですよ。だってまだ私こっちきてからまだ二年経ってないんですよ」
「あー、旦那さんは? 後から?」
「後からです」
 顔の側面がチリチリと熱くなった。暖炉をまっすぐ見つめる。この街の冬を快適に過ごすには薪が必要だろうか。もし、この地に家を建てたらどんな暖炉を?
「レコード変える? どこもかしこもクリスマスソングじゃない」
「いや、私はこのままでいいですよ。どうせクリスマスソングってクリスマスしか聞かないし、葬式の読経みたいな感じです」
 それに、ジャズ詳しくないし……、とは言えず手をグーパーしてかじかみが取れたかを確認する。暖炉から離れて外を見ると雪がすごい音を立てて降っていた。明日、クリスマスツリー周辺にいた学生が雪だるまになってなければいいけど。あなたからラインが来て、「仕事は今さっき終わったけれど、雪のせいか渋滞に巻き込まれてる。ごめん」という内容にいつも使い慣れてる絵文字が散りばめられていた。男の人って決まった数個の絵文字を酷使する印象がある。私は無意識の癖を見れるようで好きだ。あなたがどんどん型遅れになって、若い女の子に笑われるくらい型遅れになってほしい。私も流行には詳しくないから、地中深く埋められたカップルの化石みたいに過ごしていきたい。いつもの席へ座る。
「子供がクリスマスツリーに群がってましたよ」
「光るもんが珍しいんだろうね。珍しく思って、竹取物語みたいに切らなきゃいいんだけど」
 私は笑った。
「この街は何もないですもんね。だから出来事や行事が必要以上に重視されてるのかも」
「まあな、俺も人のことは言えないけど」
「なんかあるんですか?」
「町内の餅つき大会のために腰鍛えてる」
「あー、前回ギックリ腰やったって言ってましたもんね。大丈夫なんですか? 無理に動かすと良くないでしょう」
「今までまたやってないし平気だろうと……。それに体鍛えておかないと雪かきもあるし」
「あー、雪かきかあ」
「旦那さんがやってくれてるの、?」
「やってくれてますね。やっぱり彼の地元だし、私やり方わからないし、運動音痴だし」
「そりゃ旦那さんに感謝ですね」

 席に着く。カフェオレを頼んだ。身震いして、手で身体を擦る。縮こまる。
「もうちょっと暖房強くしてくださいよ。エアコン!」
 暖炉だけでは店内の寒暖の差が激しいのか、エアコンもついている。私の席はエアコンの送風が一番に受けられ、そして風が拡散しないので、エアコンがついてると風が送られてとても暖かい。それと同じ理由で夏は真反対のところを特等席にする。冷房の風から逃れるのだ。
「やっぱりレコード変えるわ。なんとなく違うの聴きたくなった」
「どうぞー。いつもそうやってるじゃないですか」
 元気というよりアッパーだったクリスマスソングがぶつ切りされ、電子音がただ重なっていくような不思議な曲がかかった。
「これもジャズなんですか?」
「いやいや、違うよ。なんとなく聴きたくなったんだ。こういう雪の日ってこういうの聴きたくなるんだ。雪の感触の音っていうか、積もり方の音圧って感じがする」
 マスターがカフェオレを持ってきながら話す。
「詩人ですね」

 カフェオレを前にしながら、本を読む。この本はあなたの部屋からくすねてきたものだ。といっても、あなたの部屋の本棚はとても小さくて、カラーボックスの一番上段に、ひっそりと実用書を背にして文庫本が何冊か立っている。やや昔の女性小説家の恋愛小説。高校生の頃に映画化したりして、少し流行っていた。たぶん後ろの作者近影と、今の作者本人とでは顔が少しは違うだろう。なんだか本を読む気になれずに、ぼんやりカバーを外したりつけたり、絵がないかパラパラとめくったり(なかった)、匂いを嗅いだりした。すこし、あなたの匂いがした。私と出会う前の匂いもすこしついてるのだろう。あなたの部屋の匂いがする。煙草のせいだろう。くんくん。降雪は豪雪とも言っていいくらいだ。私は全身に雪がついたあなたを見て、あなただとわかるだろうか。それか、凍ってしまった外の世界をここから双眼鏡で見て、変な形で凍って命を落としてしまったまぬけな人々の中からあなたを見つけ出せるのだろうか。そんな考えが浮かぶのは最近変な映画見すぎてたからかな。スマホでつけている日記を見る。ふむ、最近はちょっと昔のパニック映画を見すぎたな。好きなわけではないけれど、簡単にドキドキして、無駄のない二時間で後腐れなく、「よかった(もしくはその反対)」で終われるのがいい。人生とは大違い。
 次は何を見ようかな。

 バチンッと音がして真っ暗になった。店の中で唯一の明かり、スマホが私の顔を照らしている。スマホを消して
「どうしたんですか?」と言う。
「ちょっと待って。あれだ。たぶん雪のせいで電線が切れたんだ……すぐ戻ることはないだろうから、ゆっくり待ってよう」
 マスターはペンライトを片手に引き出しをゴソゴソやっている。かちっかちっ。
「あーこんな時にガスがない」
「ライターですか?」
「そうそう。持ってる?」
「いやー、ちょっと探してみます」
 スマホの灯りでバッグの中を漁る。あなたのライターが入ってたりしないかな……。途中で気づく。
「蝋燭ならガスコンロ使えばいいんじゃないですか?」
「あっ、そうだね」
 蝋燭の灯りで随分目が見えるようになった。二本、三本……と点けていくとそれぞれの炎の揺れのリズムに照らされて、陽炎の中にいるみたいだ。
 店の中は静かになった。吹雪の音だけが聞こえた。マスターは奥からすこし埃っぽい毛布を持ってきて、私にかけた。「エアコン切れたから、寒いでしょう。それか暖炉の側に来る?」パチパチと音を立てる暖炉の前で毛布を敷いて体育座りをする。
「大丈夫かねえ、旦那さん」
「大丈夫でしょう」
 と、言いつつ不安になってくる。スマホを取り出してラインを打つ。
「大丈夫? 信号停電してたりしてない? 気をつけてね。急がなくていいから」

「停電はあまりないなあ」
 のんびりとマスターが言う。ごそごそと携帯用スピーカーを取り出して、さっきとは違う曲をかけてる。今度はジャズっぽい。
「いつになったら着くんですかねえ。彼は……。急がなくてもいいから早く着いてほしい……」
「まあ、そんなに心配しなさんな。お酒でも飲んで」
 マスターがウイスキーのロックを私の側に置いた。
「お金は取らないから」
 一杯飲み、二杯飲み、することもないからあなたのことばかり考えている。初めは大学で同じ学部だった。そこから就職して、何回か会って、職場が近かったから同棲して、あなたが転勤になるのを聞いて、仕事をやめて着いてきたのだ。どうやら、そう言う形は結婚と呼ばれるらしいから、そのまま式も挙げずに結婚した。名字が一つだけの団地の郵便受けを見たときは感動や感慨より先に、「すっきりしている」と思った。私の名字は画数が多かったから。
 おとぎ話やロマンチックではないにしろ、私なりの恋愛なのだろう。流されるままと言えば聞こえが悪いけれど、流れは運命だったのかもしれない。デートでどこ行ったかと考えるより先に、休日にマリオパーティーしていたのが思いつく。何回も思い出を反芻して、ぼんやりしたあなたが今までよりさらに愛おしく見えた。蝋燭の炎に照らされてるあなたの幻想。おぼろげに映っている。ゆらゆらと輪郭が炎に揺らされている。

 結局、彼は日付が変わった後に来た。その頃には、私は暖炉の側で毛布を被って寝ていた。クリスマスソングがいつもより小さい音でかかっていた。あなたはあらゆる交通の難所を身振り手振りで説明したり、冷えた手で私のほっぺたを引っ張ったり、急に「寒い!」と言って、溶けた氷によって薄まっていた私のウイスキーを全部飲んで、さらにもう一杯ウイスキーをショットで飲んだ。あなたがすること、喋る言葉、全てが面白くてずっと子供のように笑った。寒さのせいか酒のせいか頬が赤くなったあなたは、私の毛布にもぐり込んだ。私に抱きついて寝始めた。わたしはマスターにすまなそうな顔を向ける。
「ちょっとまた寝てもいいですか?」
「どうせまだ停電だし、それに飲んじゃってるから運転できないでしょ」
 たしかに。また寝よう。おやすみなさい。

 夜が明けて、蝋燭が順々に吹き消されるのを二人で寝ぼけながら見る。
「メリー・アフタークリスマス!」
 マスターが店を閉める準備をしながら、こっちに向かって笑顔を振りまいている。私はコートを着て手袋をつけて店の外に出る。
「あ、そういえばね。クリスマスツリー見に行こうよ」
 二人でクリスマスツリーまでを身を寄せ合って歩く。
「あのね、あれだけが変にちかちかって周りのリズムとは違ったんだよ」
 ツリーの中ほどの飾りに向かって指差す彼女。
 あなたはその指の先を見る。停電しているからクリスマスツリーは一つも光っていない。赤や緑の嘘っぽい飾りと、精気を喪ったかのような電飾。朝焼けと氷の反射が眩しい。あなたはぐるりと周りを見回す。ふと、向かいの住宅のライトアップが目に付いた。彼女が見たのは、飾りが向かいのライトアップを反射していた光ではないか。
「不思議だね。ケーブルがちぎれかけてたのかな」
「燃えるよりかはよかったね」
「そうだね。さて、車に戻ろう。寒いでしょう」
「来年こそは遅刻するなよー」
「じゃあ来年は雪を食い止めといてくれよな」
 あなたは自分のポケットに手を突っ込んで車の鍵を確認したあと、彼女のコートのポケットに手を突っ込んだ。彼女は手袋を外してポケットの中のあなたの手を握った。