保育所

言葉なんて子を捨てる親と保育所のやりとり

入院十二日目

 同室のまともな人が一人、今日退院していった。明日、もう一人退院していくという。今日の一日はなんだか夢の延長線上を歩いている夢遊病患者のようだった。人といっぱい遊び、その次の日に人との別れがある。なんでも規則性を見出そうと思えば見い出せるくらいの人生が流れていく。ぼくはこれから数日(当初の予定ならあと十日で退院だ)の孤独に備えて準備をした。毎回、楽しかった日の後、自分に「これからの日常は浮ついていたら厳しいものになるぞ」と言い聞かすことに数日を要した。そして、腑抜けの毎日に戻るのに体や脳のチューニングで一日は過ぎていった。下手くそなドラマーがフィルインの後にモタるように、なんだか日常のビート感を忘れてしまうのだ。

 ともかく、後ろ髪を引かれるように、退院していく二人とぼくで、身のない話をした。いつもはそんなに長く喋らないのに、そして喋らなくても無駄にラウンジに居た。こういう日もある。精神病院の退院は、ほとんどが治って退院ではないから、みんな腑に落ちない顔をして退院していく。マジックを見て、タネがわからなかった顔をする。みんな、これから来る現実や日常との対決に体を強ばらせる。つくづく、精神病院は不思議な場所だと思う。ここは逃げ場なのかもしれない。けれども、逃げ続けることは出来ないし、慣れてもいけない。みんな、退院に向けて体調が悪くなっていく。そしてドキドキしながら押し出される。そういう風にすべてが過ぎていく。やはり開放といえども、精神病院の中と外界は遠く隔たっている。いろんなことを考えてしまった。