反日常系

日常派

二人組作って

 特に理由もなく死にたくなる。人の一挙手一投足に怯えて、窮鼠でもないのに噛み付くように追い詰められて、逆ギレに至る短絡的思考以外を見つけられない。それでも人に嫌われたくない一心で動いているつもりだが、おそらく人に伝わりようがないんだろうなということは自分でもよくわかる。酒の力を借りて人に愛を伝えても、少し引かれて終わりになる。

 心が弱まって、出会い系の女の人の家に行った。歯ブラシが何本も立っているキッチンで歯を磨く。女の人から借りた男物の服のポケットに手を突っ込むと破られたコンドームの袋があって、当たり前だけれど人に性欲があるということに嫌気がさした。その家の犬はぼくにとてもよく懐いた。犬のいる部屋でもセックスするのかなと思った。やけにそれが喜劇的に思える。たなかさんに恋人いるんですか?と聞かれ、恋人はたぶん一生出来ないんじゃないかなあと言った。わざわざ性欲がないとか性嫌悪があるとかは言わなかった。それからベッドで寝て、起こすのも悪いなと思って午前十二時にひっそり服を着替えて外に出た。

 セックス。セックスの存在がぼくの人生の困難さを高めてる。誰ともセックスしたくないし、できない。みんなが何を思ってセックスするのかがわからない。まあ、みんながセックスする相手を探している間、ぼくは馬鹿みたいに呆けているわけで、学校で二人組作るのの延長で二人組になれずにそれでもなんとかなるのを待ってる。先生みたいな存在が「仕方ないから先生と組もうか」と言って目立つ独りぼっちから脱却できないかなと思ってる。みんな急に二人組を作って、ぼくじゃない人と仲良くしてんだなあと思う。頼むから傷つけるのなら忘れてくださいと自分から頼んで周りたい気分になる。おそらく傷つけるなんて上等なものでもなくて、ただ消えるように忘れ去られていく。独りは目立つと思ってるのはぼくだけで、みんなは恋人を見るので精一杯だ。みんなからぼくが消えていくだけ。