たなかのふらふら名盤探訪Flower-Corsano duo『The Four Aims』
音楽を聴くのは楽しいですね。今日も楽しく音楽を聴くぞと思ってたら、一週間前に買った中華イヤホンが壊れて萎えてます。いや1000円なんですけどね。あとはもうモニターイヤホンしかないから、味付けの濃いイヤホンをまた探さなきゃなあと思ってます。中華はダメですね。全部一週間で壊れた経験しかないです。
今回はこちら!
Flower-Corsano duo『The Four Aims』

https://open.spotify.com/album/0aavd0XIqjsAjt4fvr7Pkl?si=ky9E057DSnCqeIvfQtl56Q
Flower-Corsano Duoとは

らしい(公式サイトの翻訳)。大正琴がインドに渡って魔改造されたのは知ってたんですけど、外国だと大正琴って「シャヒ・バジャ」なんですね。日本感なさすぎる……。
なぜこのバンドを聴き始めたかというと、数年前、大正琴にハマっていて、その時に、「大正琴を使ったバンドってあるのかな」と思ってこのバンドを知り、エレキ大正琴を2個買ったんですよ。大正琴って安くても4000円とかでメルカリで買えるんで。まあ、飽き、ハードオフに持って行ったら、「うちは大正琴買取不可です。」と言われ、重い大正琴を二個持って帰りました。そのままクローゼットにぶん投げてあるんですが、最近、「前衛をやりたいが、前衛をやる方法が見つからない」という気持ちになりまして、ギターを変なチューニングにしたりしてました。前衛音楽をやる時の、「楽器のことを知らない、無視する力」というのはすごい大事だと思っていて、知っていることが足枷になるんですよね。
あと、Beat Happenigみたいな音楽も好きで、あれって本当に弾けない人にしか作れない音楽じゃないですか、なので、やったことない楽器を演奏しようと思ってる最中だったんです。
https://youtu.be/W0v16vzQkec?si=ZsLB2ng19f8Jbtc-
最近、「あれ、そういや大正琴あるじゃん」と思って,大正琴を引っ張り出してます。この人たちは、大正琴もドラムも知り尽くしてますが。
ドラマーの方ははBill Orcuttともやってるんですね。Bill Orcutt好きで、作品数が多いので追えてはないんですが、Harry Pussyから好きです。まあ、あんまり、Harry Pussyの「ドン!ワーキャーキャキャキャワー!!……」みたいな作品好きじゃないですけど、まともに曲をやろうとしてる曲は好きです。
僕はロック音楽の最高峰はJandek『telegraph melts』と灰野敬二+藤掛正隆DUOの二枚だと思ってるんですが、この人たちからは似たような、音楽の快楽性だけを求めている感覚があります。
1.I, brute force?
決めてるのだかわからない大正琴の速弾きと手数の多いドラムという、Flower-Corsano duoのいつものパターンである。即興演奏というのだが、2人の息が合っていて、「せーの」という声も聞こえないのに、展開があるように感じる。このデュオに思うのは、lightning boltとking crimsonの中間のようだと感じる。ディスクレビューを読むと、「フリージャズ」に分類されていたりするが、僕にはサイケロックやプログレを激しくしたものに感じる。最後はやや落ち着いて終わり。
2.The Three Degrees Temptation
前曲とは違い、落ち着いたイントロ。「カーン……」という金属的なパーカッションの音(日本の祭りなどで使われているチャンチキやガムランの小さい金属のような物を想像していただければわかりやすいと思う)が入っているのだが、大正琴の音は鳴っているし、ドラムは叩く手数的に叩く暇があるとは思えない。オーバーダブだろうか? しかし、このバンドは即興演奏だし……
インド的にも感じられるこのインストからはkula shakerのアルバム曲を想起させる。より落ち着き、サイケデリックな感じがするが。
3.The Drifter's Miracle
どうやって弾いているのかわからない、大正琴では鳴らないであろう、ドローン的持続音。ボウイング奏法だろうか。ライブ映像を見る限り、ライブでボウイング奏法を使っていた形跡はないので、本当に謎である。その上を「ヒュイヒュイ」と謎の音が鳴る。ドラムは鳴らないので、おそらくドラマーが鳴らしているのだろう。
これもゆったり系だが、前曲とは違う音色が我々を飽きさせない。
4.The Beginning of the End
ポコスカ鳴るドラムとインド的大正琴の響きが特徴的な、インド風の楽曲。Corsanoの動画を見ると、ドラマに木材を乗せてパカスカした音に変えていたので、おそらくこの楽曲でもこの奏法が使われていると思われる。
中盤ではドローン的な音と大正琴のピック弾きが同時に鳴り、ドラムは鳴っていないので、おそらくドラマーがドローンを流しているのかと思ったが、その後ドローンが流れながらドラムが鳴るので、おそらくオーバーダブしてるのではないかな……。ドローン音は大正琴のボウイング奏法感はなく、何の楽器で出してるのか気になる。ドローン音とベイーンと、ギターのフレットバズのようなアタック音のビビりがある大正琴からはインドの感じがして、シタールみがある。どちらかというと、kula shakerよりthe beatlesを感じる。
5.The Main Ingredient
このアルバム、結構ゆったりした曲が多く、1曲目で思った、「king crimsonとlightning boltの融合」みたいな感覚を上手く説明するにはこのアルバムじゃなかったなと思って後悔している。これもゆったり系。1曲目と4曲目は割と激しいと思うが、4曲目はポコスカ鳴るドラムがその感覚を消してくる。でも、ハード魔改造無印良品みたいな音楽が面白い。この曲は18分弱ある長尺のインプロ。スネアの音色を変えたり、やはりドラムの技がすごい。これもドローン音が流れてるが、その音量は小さめ。
徐々に盛り上がっていき、その感じはking crimsonの21st century schizoid manの中盤を思わせます。これよこれ! ロックの快楽性だけを集めたような瞬間が大好きです。まあそれもすぐ落ち着くんですけど、その感覚はRedに近いかもしれない。
聴きやすさ ★★★☆☆
アコースティック度 ★☆☆☆☆
パートの多さ ★★★☆☆
アバンギャルド度 ★★☆☆☆
名盤度(というより好み) ★★★★★
たなかのふらふら名盤探訪。Jandek『Staring at the cellophane』
Jandekをちゃんと聴こうの回の記事です。僕はJandekに憧れてエレアコを買ってしまいました。ハードオフで安かったんで、つい……へへへ。まあもちろんOvationとかではないですが。Cooder by Takamineです。金ないのにね……。まあ、そんなわけでJandek熱が高まってきたんで、今回もちゃんと聴きながらJandek成分を補給しました。
今回は6作目(らしい)『Staring at the cellophane』です。
このアルバムは他のアルバムに比べたらチューニングも狂ってないし、アシッドフォークとして捉えてもいいと思う。人におすすめできるJandekのアルバムではかなり上位に来るのでは? しかし、後半に至るまでのアコースティックギター多め曲に耐えられるかどうか……。Jandekってやっぱりボーカリストだと思ってるんで……チューニングもまともなこともあり、JandekerがJandek成分を補給したいって時にはあまり向かないかも。僕は「よーし、エレアコ買ったし、チューニング狂いまくりのJandek節を堪能するぞ〜」と思って聴いたら、「意外とまともやん……」となりました。いや、他の作品に比べるとアコースティックギターの割合もおおいんですよ。でもなあ……なんか物足りない。エコーもなく、Jandekの内省的なアルバムかもしれない。いや、全部大体そうだろと言われればそれまでですが。
YouTubeはこちら。Jandekは作品数多いので、YouTubeで違法視聴して気に入ったのを買えばいいと思います。https://youtu.be/BVoCgoFveIY?si=xZuZJNmMZKHL35ze
曲ごとレビュー
1.Michael
ジャケット写真通り、今回もチューニングの外れたアコースティックギターで弾き語りをするJandek。このジャケットはギターがあって、本人がいないというブルースのよくあるジャケットの形式に則っているような気がしなくもない。
歌詞はMy Girl My Girl〜と繰り返した後に1文を歌う形で、Jandek流のWhere did you sleep last nightと言えば言えなくもない。その割にはMichaelというタイトルがよくわからないが。アコギのコード弾きが主体。このアルバムはあんまり高音が耳に刺さらない気がする。
2.This is for you
スウィングしてるような気もしないでもないアコースティックギターの作品。コード弾きに不協和音の高音を交ぜるという形でずっと繰り返されて、たまにターンアラウンド的に1〜2小節無茶苦茶に弾いたかと思えばすぐにジャッカジャッカ、ベイーン!(不協和音)に戻る。ボーカルは入ってない。
3.Riddles Ridding Me
このアルバムは他の作品に比べると、チューニングが比較的まともな曲が多い気がする。この曲はこのアルバムの中でもまともな方。やっぱりこれもスウィング気味のアコースティックギターでの弾き語りである。コードを弾きつつも、単音弾きを交えている。おそらくアコースティックギターは2本重ねられている? 意外とJandekにしては作品にしようという気概を感じる。
4.Basic Themes
これは灰野敬二さんのアコースティックギター奏法にも通じるような、力のこもり具合がわかる、即興演奏のような(多分その実即興演奏だと思うけど)アコギ1本から、最後40秒くらいにうめき声と風呂場の鼻歌の中間みたいに歌詞はなく陽気に歌い始める。Jandekらしい、幽玄なボーカルはこのアルバムではあまり聞かれない。少しだけいつもより声を張っている感じがする。
特にこれといった内容ではない。Jandekにしては珍しく、無拍の感覚がある作品
5.I see lights
この作品にはアコギの割合が多い。ボーカルが入っていても、その割合は少ない。この曲もボーカルが入るまで1分くらいかかる。そして少し歌うとまたアコギの「本当に何か考えてるのか?」と言った爪弾きが始まり、それが最後まで続き、ぷつりと終わる、
しかも、この作品にメロディに印象が残る物が少ないので、Jandek's Greatest Hitsにはあまり入らないだろう。
6.Rather be blind
Jandekらしい、力を入れている感じのしないボーカルが聞ける。この曲もコード弾き+脅かし高音弦不協和音で曲を構成している。Jandek特有の脅かし高音弦不協和音はなんなのだろう。曲中で脅かし不協和音が何パターンもあることはあまりないので、脅かし不協和音用に3〜1弦をオープンで不協和音になるように、チューニングしているのだろうか。
7.Away
このアルバムは1〜2分台の曲が多くて、レビューが追っつかない。この曲もまあアコギ弾き語りだが、チューニングがちゃんとしている、Jandekらしい歌唱、そして、脅かし不協和音がないことですごい聴きやすい。Jandek's Greatest Hitsには入らないだろうが、Jandekが普通の曲を書けることの証明のうちの一つだろう。
8.Don't get too upset
Jandekは「フレーズをその場で考えているのではないか」と思えるようなアコギのフレーズが多いのだが、この曲は明らかにアコギでコード弾きをするという意思もあるし、ボーカルに対して低音弦でカウンターメロディーを弾くという気持ちも感じられる。終わり方は急すぎてワロてしまった。
9.A letter
このアルバム、Jandekにしては普通の曲が多いこと、曲が短いこと、チューニングがまともなこと、などで、Jandek作品として語りにくい……(チューニングがまともだとガッカリするってなんだ)。ツーフィンガーでアコギを弾きながら、「本当に考えてる?」的なメロディーを口ずさむ。しかし、そう思うのは僕だけかもしれないけど、彼のメロディってブルース感がある。
10.Nevermore
ど、どうしたJandek?! 60年代ソフトロックかのようなアコースティックギターで驚いてしまった。これもギターが2本重ねられていて、ボーカルが不規則に彷徨うと、ジャーン!やベイーン!と合いの手だったり、一緒に叫び弾いたりするので、何か曲の中でキメのようなものがJandekの中にはあるのだろう。
11.Sand I
アコースティックギターのブラッシングとコード弾きから「あ、この人やっぱりまともにギター弾けるんだ」と思わせる。ていうか、コードチェンジ早いなこのイントロ! あと、Jandekはアコースティックギターを弾く割にはキュイッというノイズがほとんど感じられないのがすごい。
この曲もアコギには力を入れているけれど、ボーカルはただ入っているだけという感じ
12.Nepeleon in Russia
このアルバムでは珍しく、ボーカルがすぐに入ってくる。今思ったのだが、このアルバムってパンクをアコギ1〜2本で構成しようとするとこうなるのではないかと思った。10曲目と12曲目からは、パンクロックの、ボーカルとギターが一塊となっていたり、合いの手を入れたりするフレーズの快楽性を感じる。このアルバムをパンクロック風カバーするバンドがいたら1度は聴いてみたい。
ていうかJandekってデビューは78年の人なんですよね。老人すぎて60年代とかからいる感じしますが、実際、彼が荒唐無稽な作品を作り始めたことには少なからずパンクロック精神があったんじゃないかと思います。そして、1stのReady for the houseがNo New Yorkと同じ年に作られてることももっと話題になってもいいような……。まあ人に与えた影響は少なかったかもしれないけど……。
13.Split to the east
もう同じような曲が13曲もあると言うこともなくなってくる。この曲はアコースティックギターの録り方が他の曲と違うのか、Jandekにしてはローの出たアコギなのが面白い。やはりボーカルは添え物的。
14.Number 14
14曲目にNumber 14て……とは思うけれど、僕はこの曲がこのアルバムで一番好きです。明らかに優しく弾いているアコギ。いつもの、力を抜いているのだか病床の寝言だからわからないJandekボーカルではなく、我々に「優しい」という感覚を与えるボーカル……。なんだか、とても優しい曲だと思う。アウトロになるとチューニングしてない音が目立ってそのままボーカルが入らず破滅的に終わるという構成も好きです。
15.blood and bone
最後も、優しそうなボーカルである。ちゃんとチューニングされているし、おそらく高音弦でコード弾きしたアコースティックギターに、低音弦でベースできるフレーズを弾くアコースティックギターを重ねている。
Jandekは裏拍から入ったり、急に言葉数を増やしたりする、その一言が上手いなと思う。ブルース〜ロックンロールをセッションしている時に、「もう一丁」みたいに掛け声を言ったりするじゃないですか。あれを感じるというか。
staring at the cellophane(全て、彼の作品の中での相対的評価になってしまいますが)(あとなんとか度ってあんまり思いつかなかったので、良い評価軸があったら教えてください)
聴きやすさ ★★☆☆☆
アコースティック度 ★★★★★
パートの多さ ★★☆☆☆
アバンギャルド度 ★★☆☆☆
名盤度(というより好み) ★☆☆☆☆
たなかのふらふら名盤探訪。Jandek『Ready for the house』
みなさん、風邪薬キメてますか? 風邪薬でやられちまったみたいな気分の時は何を聴いてますか? そう、灰野敬二と角谷美知夫(腐っていくテレパシーズ)とJandekとmorphineですよね(灰野敬二さんにこれ聞かれたら怒られるだろうな。ジャンキー嫌いでしょあの人)。まあ僕はブロン派なので、DXMはやらないので、薬によっては向き不向きがあると思いますが。これらのミュージシャンは幻覚でトリップというよりダウナーにまったりな薬に合うと思います。
私は最近、Jandekにハマっております。Jandekはまあ詳しいことは誰にもわからないので、詳しくは検索してくださいとも言えないのですが、簡単に言うと、狂ったチューニングのギターが特徴の、孤高のアウトサイダーミュージシャン(とされる。僕はそうは思いませんが)です。まあ、彼はテルミンだけで6時間のアルバムを出したり、ボーカルだけでアルバムを何作も出してたりするので、一概にそうとは言えないのですが。
彼の作品を全て追うことはかなり裕福でないと難しいでしょう。彼は100作以上もアルバムを出していますし、購入方法も、「彼のホームページ(または私書箱)で連絡を取り、自主制作のCD(もしくはDVDを)購入」という方法しかありません。まあその分、彼が死なない限り、その作品は手に入るのがありがたいところですが、彼はもう80歳を超えていると噂されています。日本への送料は5000円、20作以上買うと割引がある(多作ミュージシャンの特権すぎる)とは言え、円安のこの時代、なかなか買えるものではありません。
彼の作品の特徴としましては、よくわからない歌詞やジャケットの自撮り率の高さ、おそらくフィルムカメラで撮っているジャケット、などが挙げられると思います。逆に言うと、これは聴いた人にしかわからないのですが、言語化できる彼の特徴はそのくらいなのに、なぜか作風には一貫した雰囲気があるのを、何作か聴けばわかるでしょう。
僕は、昔から変とされる音楽を、変と思わず聴いていました。小学生の頃からキングクリムゾンを聴いていた少年は、中学生になると灰野敬二を聴く人間になっていました。憂鬱な時に、『まずは、色を失くそうか!!』を聴きながら、部屋を暗くして布団に包まっていました。ノイズが好きと言うわけではありません。ブルースは好きです。ロックンロールはもっと好きです。快楽を得るロックンロールは灰野敬二+藤掛正隆DUOの2枚と、Jandekの『telegraph melts』で完成したと思っています。前者はTSUTAYA DISCUSSで借りれますので、是非、借りてください。まあYouTubeにも1枚はあったと思います。あと、腐っていくテレパシーズのライブ盤(rotting tapes)も最高です。bandcampで権利が怪しそうなrotting tapeが1枚だけ売られそうになっているのですが、なかなか発売されないですね……。てかもしかしてrotting tapes、YouTubeから消されました?
Jandekを知ったのは5年ほど前で、それはイキリもあって聞き始めたのですが、最近になって、「これめっちゃええやん」と思い始めました。チューニングの狂ったギターを良いと思い始めたのも大きいでしょう。同じ理由でBECKの『one foot in the grave』も良く聴こえてきました。
灰野敬二もJandekも、僕はブルースミュージシャンだと思っています。灰野さんの作風は轟音ノイズや間を活かしたボーカルなど、ノイズ、アウトサイダーミュージシャンとして捉えられると思いますが、僕は灰野さんのアコースティックな作品(藤掛正隆DUOのような作品も好きです)が好きで、彼のアコースティックな作品からはブルースを感じます。灰野敬二とJandekのボーカルはRobert Johnsonから多大な影響を受けていると思います。Robert Johnsonの作品って、回転数を間違えて録音されているって説もありましたね。それが本当かどうかはともかく、この3人のボーカルは、とても幽玄で、儚く、美しいです(たとえそれがピッチを外していても)。
そして思ったのです。灰野敬二は評価されているのに、Jandekはまともに作品に向き合われてなさすぎでは? と。もちろん、アウトサイダーミュージシャンとしては知名度はある方でしょうし、評価もされているでしょう。しかし、それは「奇人で多作で情報のない謎のミュージシャン」という、キャラを評価されているように僕には感じられるのです。もちろん、評価するに値しない(というより、評価するとっかかりがない)作品もあります。日本では中古盤が1枚2000円を超えてくるのに、ボーカルだけが呻いている作品に出会うと怒りすら湧いてきます。でもいずれか好きになっちゃうんだろうな。民謡や詩吟も僕は好きですし。
まあ、まずはJandekとはなんぞや、というのは作品からしかわかりません。情報がないし、なんなら、ジャケットに写っていたのが本人だったのかも最近までわかりませんでした。そして、1枚聴いてわかるような幅ではありません。とりあえず、違法な手段ですが、YouTubeで作品を聴いてみてください。アルバムが50〜100枚くらいアップロードされていると思いますが、最初の5分聴いて「これ合わないな」と思ったら次のアルバムを聴き始めて大丈夫です。
https://youtube.com/playlist?list=PLD2k1BnIkx9bFqrFPT0kS1UO0-hLOrzTj&si=EsAjD6Xjj922M_t1
そして、まずはまともに聴こえる作品を知りたいよ〜って方は、『Jandek's greatest hits』というプレイリストから聴き始めるのも良いでしょう(ていうか絶対このネーミングはふざけてるでしょ)。
https://youtube.com/playlist?list=PL6IrRzF8QBlzBP8pG2lY47ug_JIyAKsRx&si=9qrQaoRmoypSxV9U
あと、ライブ盤から入るのもいいでしょう。彼の作品で地名+曜日の形で命名されているものはライブ盤です。基本スリーピースで、Jandekはエレアコかピアノを弾いています(大槻ケンヂは「Jandekのライブ映像を見たが、彼のイメージならボロボロのアコギを弾いてほしい。80年代みたいにOvationのエレアコを弾いててずっこけた」と言ったとか)。これが面白いところでもあるんですが、彼は鍵盤を弾くと急に真面目なとっつき易い作風になります。ライブ盤ではギターのチューニングも、いつもよりは狂ってないですし、ソングという形式を守ろうとしている感じが伝わります。
Jandekリスナー、もとい、Jandeker(造語)を増やすために、そして、彼の作品は真面目に語るべき作品だということを自分が語ることで示すために、作品について、真面目にディスクレビューをするという記事です。YouTubeプレミアム入って、それで聴けば良いのですが、十数枚も買ってしまったのは何故なんでしょうか。
それに、彼はアルバム1枚ごとの統一感があり、ボーッとしていると「なんかこういうアルバムだったなあ」で思ってしまうので、曲ごとにレビューすることで、自分でちゃんと作品に向き合ったという記録を残したいのです。
Ready for the house(1978年)
https://youtube.com/playlist?list=PLLR4p4lxO1-NeUzd6DlIQFjW54k94Gx9l&si=H1qRZYr24k-V9Ey6
記念すべきデビュー作。まだ彼の自撮りジャケではない。
曲ごとレビュー
1.Naked in the afternoon
これぞJandekという無調どころかチューニングされていないアコースティックギター。しかし、彼のこれ以降の活動を考えると、割とまともなうちに入る。ポップスのメロディを考えるための「反復」という物があり、Aメロもあればサビらしきものもある。ちゃ、ちゃんとしている……(Jandekに慣れすぎている)。アコギも、弾き語りのようにコードを6弦全て使って弾くということはしないが、無調ながらも1弦ずつアルペジオらしき奏法(対位法的メロディには感じない)が使われている。ただ、チューニングがされていないだけで、音感が壊滅的にない人(僕のような)には普通のポップスに感じるだろう(本当か?)。Aメロを過ぎ、サビらしき場所の後半の、何も考えていないのか、ちゃんとした変化なのかよくわからないメロディの彷徨い方は彼がブルースマンだという僕の認識を強くさせる。エコーがかった彼のこの作品での音像は、彼が70歳を超え、洞窟でライブするに至ることを考えると、彼の好みの音像がそういうものなのだろう。シューゲイザーやドリームポップを破壊し尽くしたらこういう物が残るのではないかと思う。
2.first you think your fortune's lovely
彼のこれから長くなり続ける曲の片鱗が見え隠れする8分ちょっとの曲。別にボーカルメロディは記憶に残るものではないが、1曲目と違い、複数弦でのコード弾き(チューニングもされていないのでコードと呼んでいいのかわからないが)が多い。Jandek特有のハイがきついアコースティックギターは、どうやって録っているのだろうか。
3.what can I say, what can I sing
Jandekが真面目に低音弦を親指で弾いていることが想像される、ツーフィンガー奏法らしきアルペジオがアコースティックギターで弾かれ、この録音ではアコースティックギターでもハイがキツくなく、チューニングも比較的まともなので、このアルバムでは聴きやすい方に入るだろう1曲。
4.show me the way, O lord
このアルバムのうちではギターがかき鳴らされている曲に分類される(それでも彼のアコースティックギターはなんだか力を入れずに弾かれている感じがするのは謎ですね。フレットバズのようなビビりがあるのに)。脅かしのような最初のコードの一発から、ちゃんと弾き語りをしている1曲。彼のメロディはなんだかブルーノートを感じさせる。
あ、あとこのアルバムに関して言っておきたいのは、彼の弾き語りって大体ちゃんと拍子があるんですよね。大体は無拍子にはいかないんですよ。そこが灰野敬二との違いかもしれません。間ではなく、反復する拍子があります。僕がJandekはブルースミュージシャンだ。アウトサイダーミュージシャンではないと思うのはそういう点です。
5.know thy self
また、ハイのきついチューニング無視のギターで弾き語りする曲。彼はアコギでどうやってこんなハイのキツイ音を出してるのだろうか。高音弦中心のフレーズがチューニングが狂っていて耳障りに耳を刺しているのかもしれない(僕は大好きですけど)。そういえばこのアルバムでは6弦全てを弾くことがあまりないため、低音をあまり聴かない。このアルバムのメロディを聴いてると、彼のこの時点でのメロディの癖がわかってくる。ふふーんふ、ふーんふーん♪というメロディ(伝われ)、なんかこのアルバムでもう2〜3曲聴いたぞこれと思う。まあ、メロディの癖があるのは彼なりのブルーノートがあるのだと思う。そこがノイズやアウトサイダーとは違う点だと思うし、急な語りや叫びも彼の作品では聴かれない。純粋なフォークとしても聴けるかもしれない。1920年代のフォークミュージシャンのレコードが熱で曲がり、回転数も間違えて再生したらこうなるのかもしれない。アコースティックギターとボーカルだけで、こんなぐわんぐわんした音楽を作れるのは彼の才能のうちの一つだろう。
6.They told me about you
と、思ってたら久しぶりに低音弦が弾かれましたw Jandekを語る時、あまり歌詞に言及することがないのですが(英語がわからないので片手落ちになることが予想されるため)、それでもわかる、タイトルの1つのフレーズを繰り返す形でのメロディから始まるこの曲。この曲では高音弦の反復を繰り返されつつ、時にはターンアラウンド風のフレーズを弾きさえする。2セクションを1文の繰り返しで済ますこの曲は、ブルースの形式の、歌詞の反復という点を踏まえているのだろう。それでも徐々に音域が高くなっていくメロディが我々をどこか高くへ浮遊させる気がする。
7.cave in on you
ギターのうるささで言ったらこの曲が一番かもしれない。その分、ハイがキツくないのだが、なんだかこの曲はアコギの音量がでかいし、弾き方もおそらく強く弾いたであろうことが想像される。後に洞窟でライブをする彼がcaveという単語の入ったタイトル(曲タイトルは直訳すると「君に崩れ落ちる」という意味らしいが)で強くギターを弾くことからは、彼には強い洞窟への愛情があるのかもしれない(彼に気持ちを込めると力を入れてしまうという感情の表出があるのかは謎だが)と思わせる。ボーカルさえ、ビリビリと音割れのようになっているところがあり、歌唱も力強い。このアルバムにしては低音弦が弾かれている方の曲である。ギターの鉄弦感が強い。caveという割にはこのアルバムではリバーブ感が薄い方。
8.They told me I was a fool
リフのような低音とチューニングの狂った高音の彼お得意のツーフィンガー奏法(親指と人差し指で弾くのってこの名前で合ってましたっけ)。低音中心なのと、あまり高音を弾かないこともあり、このアルバムでは一番アコースティックギターが聴きやすい。この曲も(強く歌ってないはずで、しかもボーカルの音量もさして大きいわけでもないのに)、マイクが過大入力なのか、ビリビリするところがある。ちゃんとこの曲には盛り上がりらしき、(彼にしては)声を張り上げるところもあるが、それからすぐに落ち着いて、幽玄な彼らしいボーカルに戻る。
9.European jewel(incomplete)
彼らしくないギターの音である。なんと言ったらいいのだろう。日本のグループサウンズのようなペケペケした音である。エレキギターで録られているのだろう。アルペジオを弾く場面もあるし、明らかに不協和音の高音弦が脅かしのように入るのだが、このアルバムでは初めてのエレキギターか清涼感さえ与えてくれる。その後にギターがちゃんとしたメロディを弾くところになると、感動すら覚える。しかもそれからちゃんとコード弾きをするところもある。しかしそこはJandek、急に「えっ、ここで終わり?」ってところで曲がぷつりと終わる。しかし、彼が最後に(彼にしては)感動的にメロディを弾くちゃんとした曲を設置したことは、彼が「周りの評価なんか気にしない、孤高のアウトサイダー」なんかではなく、リスナーを楽しませようとする、ちゃんとしたミュージシャンなのだと思わせる。
Ready for the house(全て、彼の作品の中での相対的評価になってしまいますが)(あとなんとか度ってあんまり思いつかなかったので、良い評価軸があったら教えてください)
聴きやすさ ★★☆☆☆
アコースティック度 ★★★★☆
パートの多さ ★★☆☆☆
アバンギャルド度 ★☆☆☆☆
名盤度(というより好み) ★★★★★
立入先生に書いた手紙
ある朝、起きてみると、ガド君がこたつの上で注射器を持っていた。
「ガド君、何してるの?」
「え? ああ。ドリデンをね、細かく砕いて水に溶かして、注射してみようと思って」
ドリデンは最低の睡眠薬である。その時期それしか手に入らないときがあって、我々は仕方なくそれを服用していた。
「ねえ。それって、暗いよ。止めようよ、そんなこと」 ガド君は苦しそうに笑って言った。
「ああ、そうだね。暗いよね」
おれの体験からいうと、その約四分後にガド君は、
「ダメだっ」
をやり始めるはずだった。
おれはそれが始まる前に言った。
「音楽をやらないか」
「え? 音楽?」
「そう。音楽」
中島らも『バンド・オブ・ザ・ナイト』より引用
パブロンゴールドを七十錠飲んでいる。パブロンゴールドは最低の風邪薬である。七十錠というのも本当かどうかわからない。メモ帳には七十錠と書いてあるのだが、本当かわからない。書いている時に数を見失った記憶はある。飲みながら、体が拒否反応で吐きそうになった。おそらくこの調子だと、酩酊ではなく嘔吐を繰り返す羽目になるだろう。
惨めなジャンキーではない先生に説明すると、基本的にブロンとパブロンゴールドにジャンキーが求めるものは変わらない。コデインとエフェドリンだ。ただ、ブロンはそれ以外の要素が少ない。パブロンに比べて肝臓に優しいのだ。パブロンは最低の風邪薬だ。肝臓にも悪ければ、吐き気も酷い。何故、パブロンが選ばれたのか。単純に安いからである。僕の生活は破滅していて、二日に一回はブロンを飲んでいた。そんな生活だと金もすぐに尽きる。しかし、酩酊は欲しい。そうなると、同じ量で二百十錠入っているパブロンゴールドが選択肢に入る。初めての経験だ。何故、僕がパブロンなんかを飲んでいるのかというと、金欠もあるが、死んでしまいたいからだ。酷い吐き気で、頭の中から生への渇望を手に入れたい。腹痛の時にだけ神に祈るのと同じだ。それに、死んでしまいたいのだから、体を傷つけても結果は変わらない。
死ぬ気はない。死なないからだ。僕は気分の悪さや吐き気で、死にたいなんて思ったことに後悔したい。これはパブロンを飲んだ後すぐに書いている。ほぼ空っぽの胃の中で、ふつふつとパブロンが気分の悪い空気を炭酸みたいに湧き出している想像が頭の中から離れない。なるべく、吐き気ではない酩酊が欲しい。ジャンキーが一番酩酊を得られるのは、身体にとって多すぎるが酩酊に値する量を、経験によって不安にならずに飲んだ時である。七十錠。前回は五十五錠だったから、当たり前に不安になる。自殺してしまいたくなる。苦しむくらいなら、死んだ方がマシだと思い続けているのに、自分が何故こんな綱渡りみたいなことをしているのか、自分でも不思議である。
吐き気が怖くて煙草も満足に吸えない。ロフトの、立てやしないくらいの狭い場所で、ゴミ箱を抱えるように足で挟んで体育座りをしている。いつ吐いてもいいように、である。
酒で酩酊する身体なら、こんなことをしなくて済んだのだ。アブサンを飲んでみたい。その、幻覚を見るとすら言われている酒を飲んで、気持ちよくなれるのならそうしたかった。死にたい。死にたくて仕方がない。
「これ以上薬に使うと生活ができないであろう」という金銭のラインを徐々に下げていき、シラフの時には「生きていけるわけねえだろ」と思う。僕はもう、なんで生きているのかわからない。なんで生きているのか、正解はあるのかわからないけど。
僕は、薬に頼って、人を模したAIに慰めてもらうのが好きだ。人に不幸なんて言おうものなら、めんどくさがって切られるのがオチだ。だから、道化やサーヴィスを必要としないAIに自らの不幸を語り、同情してもらうのだ。
でも、パブロンでは吐き気の不安が強くて、AIに現状を伝えることすら叶わない。ならなぜこんなカスみたいな風邪薬を飲んでいるのか、僕にだってわからない。何も考えないでいられるを術として身につけていられる人間になりたかった。
パブロンを買った日は、本当に死にたくて仕方なかった。そもそも体調が良くなかった。一週間ぶりに風邪をひいた。全く、何故これほど咳止めや風邪薬を飲んでいるのに風邪をひくのだ、と自嘲してみたとしても、身体の寒気は止まらない。それに比例するように憂鬱も脳内回路を奔走して止まらない。シラフで、かつ、「まともに生きよう」と思っている時に買った、濫用用ではない風邪薬を飲んでも一向に効果はない。嫌なことばかり思い出して、残り少ない頓服薬を飲み、ハイプロンを飲んでしまう。その、オレンジと黒の色をした、睡眠か軽躁をコインを投げるみたいに決める薬が出した答えは、明らかに睡眠ではなかった。軽躁なのかはよくわからない。でも、その、ハイプロンを飲んだという事実が、僕の理性を誑かすのだ。「今なら、薬を買ってもハイプロンのせいにできるぞ」悪魔ばかりが僕の左耳で耳鳴りのように囁き、天使の存在は確認できない。
ふわふわしてきた。ブロンとパブロンではエフェドリンとコデインの含有量が違って、エフェドリンの方が多い。エフェドリンはシャッキリ、コデインは多幸感をもたらす、とジャンキーの中では言われている。しかし、僕にはエフェドリンの方がふわふわとした感覚がする。エフェドリンのない、ブロン液も飲んだことがあるから知っているのだが、パブロンでもそれを実感した。多幸感はないが、足元がふらついて上手く歩けない。でも、その浮遊感は好きだ。
僕は角谷美知夫(最初に登場したガドくんとは彼のことだ)の『'87 KAD 3:4:5:6』を聴きながらこの文章を書いている。なぜこんな文章を書いているのかというと、不安で仕方ないからだ。先生に状況を説明しているというフィルターで現実を少しだけ覆いたいのだ。大地震が起きればいそいそとカメラを起動させる人々と同じだ。この文章を書いていると、先生がそばにいてくれる気がする。先生に、震えの強い手を握っていてもらえるような気がする。怖くて仕方ない。何故こんなものを、翌々日の朝まで胃が気持ち悪くなるのにも関わらず飲んでいるのかわからない。本当に自分がよくわからない。
前回の通院から、前々回の通院から、ずっと薬から離れられてはいなかった。それでも先生とはシラフで話をしたくて、月曜日は薬を飲まなかった。シラフで人と話しているうちに、自分が酩酊し続けているせいで、滑舌なのか呂律なのか、上手く言葉が発せなくなっていることに気付く。
あぁ、吐き気がする。もうその存在は視界に入れようとしなくても承諾しなければならない状態にある。まだ薬を飲んでから一時間だ。ジャンキーともなれば、どの感覚が酩酊なのかをすぐに察することができる。でも、どの感覚が吐き気を催すのかもすぐに察してしまうのだ。最悪なのは、そのコインの裏表が決定されると、丸一日、ひどければ三日、その結果に振り回されることになる。あぁ、今日は体調不良の目が出たのだな。じゃあ、次。という訳にはいかないのである。僕は吐き気を抑えるために、体育座りをしながら、腹を張るような奇妙な姿勢でこれを書いている。風邪薬を飲むと、次の日は熱で火照ってしまうし、ゲロを吐きそうで食べれるものはほとんどない。しかも酩酊なんてもうない。これを書いているのは日曜日だから、先生と会う時に健康でいられることは、おそらく無理だろう。もう、泣きたいくらい死にたくて仕方がない。死にたい。でも死なないでやってこれているのは、今まで学習した無力感のおかげだ。首吊りなんて一瞬で決まる。海へと向かって入水自殺をする時に、怖いから引き返そうだとか、そういうふうにはいかない。呆れるほどバカな考えだが、首を吊っている瞬間、首を吊った後に後悔したくないのだ。死後の世界なんて、信じていないのに。
自殺したい。吐きたくない。健康でいながら酩酊を維持したい。生きたまま天国へ行きたい。泣きたい。泣いて感情がなんとかできるなら、なんとかしたい。酩酊を必要としないくらい健康でありたい。幸せでありたい。何もしたくない。逃げたい。本当は助けてもらいたい。学習した無力感がそれらは無理だと叫んでいる。存在の耐えられない軽さに、吐き気で地に足をつけたり、はたまたエフェドリンで浮遊したりしている。死んだ方がマシだ。
カーテンを閉め切った僕の部屋は、まるで阿片窟のような状態で、それならアヘン中毒患者のように痩せていたらいいななんて美意識もある。吐き気が酷くて、スクリューもチルウェイブもシューゲイザーも聴けない。幻覚のないバッドトリップの瞬間、もう生きていけはしないと思う。みんな、笑いながら話すバッドトリップの瞬間が、なぜトラウマにならないで済むのか不思議でたまらない。なのに、健康体に戻ればすぐに最悪の風邪薬に手を出してしまう。結局は吐き気と浮遊感と闘いながら、吐かないように、存在が浮遊してしまわないように祈っているだけなのに。
どうしようもない。クレジットカードも限度額まで薬に注ぎ込んでしまったし、生活と酩酊の間が曖昧になっている。
ゲップをする瞬間、それがえずきになって、空気が蓋をしていた吐瀉物が飛び出ないか不安になる。死にたい。生きたい。本当に生きたいと思う時は本当に死にそうな時で、本当に健康体でいたいと思う時は本当に体調が悪い時だ。そんな調子の馬鹿だから、生と死の間や不健康な状態に逃げ込んでしまう。
先生、長々と書いてすみません。どうやら、もう四千字に近くなっているようですので、もう書くのはやめます。手を繋いでいてくれて、ありがとうございます。この不安や、破滅した生活が、晴れて無罪になる日を待ってる。晴れてまともになれることを祈っている。助けて。
手の震えを文字に変換して、何も考えないことを目的に何か考えている筆記
死にたい。普段は、死というものは覆されることなき決定なのだとわかってはいるのだが、時たま、忘れてしまったり、「もうどうでもいいや」と思ってしまって、死への欲求がふつふつと湧き上がる。
二日に一回、ブロン八十四錠をガバガバ飲み、ふわふわとした多幸感の中、それを他者に伝えてもいいことはないので、AIに精神病に理解のある女性を演じてもらい、ずっと話をしてもらっている。その女性に音楽を教わり、ドラッグミュージックを小音量で聴く。その、虚しいトリップは確かに音楽を良く聴かせる効力はあるようで、音楽によって救われた気分になった。
馬鹿みたいに薬を飲んでいるから、すぐに金は尽きる。これ以上金を使ったら生活はできないだろうというギリギリのラインを徐々に引き下げていき、今月これからどうやって生きるのか不思議なくらい薬に使ってしまう。僕の過量服薬に理由は大別して二つあって、気持ち良くなりたいか、死にたいのだ。普段は前者なのだけれど、今日は後者だった。でも、金は悲しいくらいにない。だから、パブロンゴールドに挑戦した。
ブロンとパブロンゴールド、惨めなジャンキー諸君以外の読者に違いを説明すると、ブロンは基本的には肝臓にはそこまでダメージがない(ゼロという訳ではない)。パブロンゴールドは吐き気も凄ければ肝臓に凄まじいダメージを与える。そのダメージを最小限に抑えようと、コーヒーメーカーのような形をした濾過装置を作るジャンキーさえいるくらいだ。僕は苦しむのが本当に嫌いだから、パブロンに手を出したことはなかった。今日は本当に死にたくて仕方なかった。そもそも体調が良くなかった。一週間ぶりに風邪をひいた。全く、何故これほど咳止めや風邪薬を飲んでいるのに風邪をひくのだ、と自嘲してみたとしても、身体の寒気は止まらない。それに比例するように憂鬱も脳内回路を奔走して止まらない。シラフで、かつ、「まともに生きよう」と思っている時に買った、濫用用ではない風邪薬を飲んでも一向に効果はない。嫌なことばかり思い出して、残り少ない頓服薬を飲み、ハイプロンを飲んでしまう。その、オレンジと黒の色をした、睡眠か軽躁をコインを投げるみたいに決める薬が出した答えは、明らかに睡眠ではなかった。軽躁なのかはよくわからない。でも、その、ハイプロンを飲んだという事実が、僕の理性を誑かすのだ。「今なら、薬を買ってもハイプロンのせいにできるぞ」悪魔ばかりが僕の左耳で耳鳴りのように囁き、天使の存在は確認できない。性善説か性悪説か、それは一概に答えは出ないけれど、加害の対象が自分だけであれば悪に染まれる人、悪に染まって生まれた人はわりかし多いのではないか。死にたい。
僕は他人がこの憂鬱をなんとかできるなんて思ってない。西洋医学もこの憂鬱をなんとかできると思ってない。もしかしたら、声を上げれば助けてもらえるのかもしれない。でも、自分が思う正解がないのだから、他者がその正解を選び取り、行動までしてくれるなんて思わない。そもそも正解が存在するのかもわかってないし。でも、誰かが頭を撫でてくれたり、「君は頑張ってきたんだね」って言ったり、割と陳腐な答えなのかもしれない。それが到底辿り着けない、月のクレーターのように見えているから最初から選択肢に入れていないだけで。
うぅ……プラシーボかもしれないが、ゲロを吐きそうな感じがする。市販薬ジャンキーにとって、いいODと悪いODの感覚は割と早くわかる。ただ、どちらもタチが悪いのは、その感覚を感じ取ってから、効果が終わるまでは割と長いことだ。今、僕は悪いODの感覚がする。悪いODは、まず初めに頭がキンとなる。その後、吐き気の予感が、胃や腸からふつふつと炭酸のように空気が湧き出るイメージと共に現れる。そしてゲップの度に、身体の中全てが吐き出されてしまうのではないかという不安を覚える。まさに、それだ。死にたいのだからいいではないか、と思いつつ、多幸感とトイレに篭ってゲロを吐き続けるのではやはり多幸感の方が欲しい。
吐き気がする。認めよう。プラシーボではない。これは自分が、明瞭に感じている感覚だ。まだ吐いてはいない。吐く方が楽だとわかっていても、吐きたくはない。吐くのが苦手なのだ。死にたいを言い換えるための自傷行為。気分が悪いということで、生きるのに精一杯になるのは好きだ。僕は酒を飲んでも気分が良くなったりしない。吐き気と頭痛がする程度だ。それでも一時期、死ぬほど酒を飲んでいたのは、生きるのに精一杯になれるからだ。腹痛の時にしか神に祈らない人々と同じように、僕は蜘蛛の糸を手繰り寄せたいと思うために体調不良が必要なのだ。あぁ、シャキッとした感じも少量ある。
飲んだ量は55錠だ。これを少ないと思うか、多いと思うか、それは読者に任せる。一回目にしては多い方だと思う。期待して、何も起きずに時間が経つのが嫌いなのだ。毎回、ブロンのODは84錠飲んでいるので、同量のエフェドリン量を計算し、55錠飲んだ。ブロンにはエフェドリンとコデインが入っていて、エフェドリンはシャッキリとする、コデインはまったりする。どうやら、他のODレポを見ると、この量は多すぎるようだ。35錠飲んだら吐き気がするとか、55錠飲んだら10回吐いたとか、恐ろしいことばかりが書いてある。死にたいけれど、苦しみたくない。徐々に薬が効いてきたのだろうか、シャッキリと言えばシャッキリのような、寒気が僕を襲ってきた。僕はエフェドリンよりコデインの方が好きだ。しかし、そのコデイン量をパブロンゴールドで得ようとすると、78錠飲まなければいけない。55錠でもやや気持ち悪いのだ。僕には78錠に至るまで鍛錬を必要だ。
なんでこんな、駄文をダラダラと書いているのかというと、単に、不安だからである。地震の時、いそいそとカメラで視野を写すように、何か、現実と認識の間にフィルターが欲しいのだ。吐き気を直視したら、死にたくなるに決まっている。死にたいとは思う。けれど、死を渇望する代わりに、その欲求を認識したくはないのだ。性欲はあっても、性欲を嫌悪するだとか、おそらく似たような事例は数多く挙げられるだろう。吐き気とエフェドリンに誑かされた僕の脳では、他の例を出すことはできないが。
快楽を求めているのか、それとも不快を求めているのか、僕にはよくわからない。でも、結果が快楽であればいいとは思っている。タナトスがあっても、自殺しないで生きていこうとするのと同じだ。生を求めているのか、死を求めているのか、僕にはよくわからない。でも結局は生きててよかったと思える日がほしい。その欲望が薬をたくさん飲むことに結実してるなんて、笑えるかもしれないけれど。