反日常系

日常派

2020-01-01から1年間の記事一覧

もろびとひとりで

雪が影さえ落とさないクリスマス・イヴの日に、俺は実家にいた。特に暗い話題もない。したことと言えば、眠れない夜の供に頓服すべてを服用して記憶を消した程度だ。起きた時は布団の中だった。 クリぼっちという言葉がある。クリスマスに独りぼっちの人のこ…

在る阿呆の一日

今度は鬱だ。迷路を彷徨うように、同じ道にデジャヴを感じ、これでいいのかと悩んだりする。しかし、常日頃から自分が精神障害者なのか悩むことしきりなので、横たわって死にたいと思うこと、咳止め薬に助けを求めること、万々歳なのである。メンヘラに憧れ…

傷跡の話

タトゥーを入れた。一回目だと感慨もひとしおなのだが、もう五回目なので、図書館に本を借りに行くような気軽さで入れた。左脇腹に伸びをしている猫。とても気に入っている。あとはうまくアフターケアをできるかどうかなのだ、が。 タトゥーというものは結局…

僕と鼠の小説の中

セックスも人の死もない日常の中を、すいすいと泳ぐようでいて、あてもなく流れに逆らって現在地を変えない魚のように過ごしている。今日に波はない。大いに結構なことだ。セックスを語ることは非常にダサいことだ。かといってセックスがいかに生活の中にな…

シンデレラストーリーに憧れて

何もしていない。これまでにいったい何千文字、何もしていないと言うことに使っているんだろう。今日は本当に何もできなかった。ここ数週間、本を読むことや歌うことができていたので、何もできない今日が何倍もの自己嫌悪になって襲いかかってくる。何もで…

悪魔もいない12月

何もなく十二月を迎え、時間の経過の早さは例のウイルスの流行を参照するまでもなく、人々の体感に訴えかけている。俺はベランダでひねもす煙草を吸っているか、寒さを理由に布団にくたばるようにのたばっている。天使さえバスケットボールをしないであろう…

考えられなくなること

冬の影が朝方と夜に伸びて、暖房をつけた。本を読んでも、アニメを見ても、ギターを弾いても、鬱になって横たわっている瞬間には勝てない。昔に比べて活動的な人間になっても自己嫌悪が心臓をつつく。慣れてしまえばすべてが当たり前になって、嫌いになって…

散歩思案

去年か一昨年と同じ道を歩く。いつも通り散歩をして暮らしている。去年はスマホに気を取られて気付かなかった落葉に気付いて、気付くという行為そのものの高揚感に包まれる。木々は無鉄砲とも浅はかとも言えるスピードで葉っぱを降らしているのに、いつまで…

通院先がようやく決まる

ようやく通院先が決まる。それだけでとても嬉しく、嬉しいと思うことの程度の低さ、すなわちいかに日々が低空飛行で空と地面をすり合わせてなあなあにしているかについてを考える。病状の悪さ。人から人以下の扱いを受ける半死人。人の扱いを受けるだけでそ…

医者に断られる

朝っぱらから電話。片っ端から予約を取ろうとしていた精神科から患者が多くて受け持てないとの返答を受け取る。次をあたれ。その返答から想像しなくていいことを想像して、なにか他の理由があるのではないかと勘繰る。どうして、症状があるというのに病院に…

写真なき近影

出来事を一から説明するのが苦手だ。怒った時に気の利いた文句が思いつかないのも短所だ。月曜日、医者に行ったらこっぴどい態度で追い返される。そこから紹介してもらった病院に予約の電話を入れるも、受付のババアは話を聞いてんだか聞いてないんだか役割…

ほとんどのはしがき

退院したが、退院も入院もなにも違いあるめえと思って更新をしなかった。周りは「退院したら知らせてくれ」と言っていたので、知らせると、うち二人が「お勤めご苦労様です」と言ってきたので、苦笑にも似た微笑で画面を見つめた。まあ、身体を悪くしたわけ…

日記

十六時に病棟の鍵がかかる。まあ、いつもかかってて、許可制で外に出るのだけれど、その許可も取れなくなる。いつも、この鍵がかかると安心する。今日は余計な飲食や飲酒をしなかった。今日は過量服薬しなかった。いろんなことが禁止されることで一日が確定…

網目から転げ落ちて

退院の目処が立ったので、通院先に電話をした。予約を取るためだった。 「たなかさん、どうなされました?」 「いや、退院の目処が立ったので通院の予約をしようと思ったんですけど」 「たなかさん今医療保護入院してるじゃないですかぁ……」 話を聞いていく…

髪を切りました

インコのような顔で外を見る度に看護師が「タバコ外出ですか?」と聞いてくる。俺は煙草を喫まないと何度も言っているのに。おそらく、ヤニ切れの呆けた顔に俺の顔は似ているのだろうと思う。 俺、という一人称に背伸びした少年の気持ちになる。俺という一人…

二つの掌編

エレヴェーターミュージック・フェスティバル 青年がマイクロフォンの調子を、教えられた奇妙な手筈で確かめている。彼はエレヴェーターミュージック・フェスティバルの運営スタッフであった。 その催しは彼の住んでいる町が一年に一度、張り切って行う祭り…

季節に敏感であったりなかったり

夕方のチャイムが一時間早まったことを、病室の二割も開かない窓越しに知った。精神をおかしくしていると様々なことに気付かなくなる。最低なのは精神をおかしくしていることすら気が付かないことだ。ぼくは親に「もうおかしくならないよ。大丈夫」と言う度…

生きかけたくもなかった

リストカットをした。血がぴゅーと噴き出すまでいったのに、死ぬのが怖くて生き延びてしまった。生きるのだって死ぬほど怖い。死ぬことは生きることと同じくらい怖い。結局はどちらにしたって怖い。金がないこと、自分に金を稼ぐ能力がないこと、人の補助が…

若くないと言い始める一番若い歳で

したいことはなく、したいことはないという何度目かも忘れた宣言をまたここに繰り返す。一瞬だけ躁がやってきて、生活を破壊して、手首に引っ掻き傷をつけて去った。記憶がないのはいつものことだが、記憶がない時にカウンセリングの予約を取ったのは本当に…

病みツイート

親元と自分の部屋を行ったり来たりしている。病院の医者はすぐに「それでは入院ですね」と言い始め、次の週には親元に帰るといいと言う。 特に親はもう憎んでいない。父親はウザったらしいがもう老いたし、病気を引きずって歩いてるのを見るとかなしくなって…

自己嫌悪

言いたいことは何もない。コデインを飲んでも体はさりとて何事もなく、大体いつものように効いてるのかわからないけれど、その行為自体が自傷の趣を持つからそれだけで自傷をした気持ちになった。少し自分を征伐した気持ちと、このまま消えていくことができ…

日記

病院に行くために、実家から借りている部屋に行き、何もしなかった。部屋から病院に行き、実家に帰った。やはり、何もしなかった。 それ以前は、まあまあ趣味を行えたり、本を読めたりしたのだが、少しのルーティンの崩れで、何もできなくなってしまった。do…

三つの掌編

好きなようにいぢめる 彼には痛みというものがなかった。いや、痛みを認識してはいた。しかし、それはさりとて「痛い」と言ったり、のたうちまわるものではないと思っていた。彼はやたらめったらピアスを開けたし、リストカットもレッグカットもネックカット…

日記

訳もなく、実家に帰っている。母親は明らかにぼくに依存していて、過去いろいろあったことを考えると怒りが湧いてくるような、べたべたとした不快感にやられるような気持ちになってつらい。父親は本当に苦手なので、喋りかけてこないのは本当にありがたい。…

ウラミ・ツラミ・タノミ

忠犬ハチ公は、残飯を鋭く狙うことで有名だったそうである。久しぶりに文章を書こうと、もったいぶった話から初めて、じっくりじっくり確信に近づいていく、そしてあとほんの数センチメートルというところでそれはふっと消えてしまう。自分が何を言おうとし…

日常のそれ自体の感覚的な不快

何も考えていない。何か考えるとすれば何も考えたくないということだけで、息をするだけの消極的な生きる姿勢が猫背になって背筋を伸ばせなくなってく。梅雨になって窓から見える景色が灰色の雲に覆われて、雨音が激しければ自分とは関係ないのになぜかうれ…

最近の欲望

死にたいなら早く死ねよ。極論だが正しいように思える。自分を否定する言葉としてとても使いやすいために、言葉の意味とは別に首肯せざるを得ない気がする。 退院してからというものの、特筆することはありませんでした。もちろん、出来事という出来事がない…

ほっといてくれ愛してくれ

愛について、特に語るべく経験も、言葉にしなければならないというような情熱もない。わたしは二十四になった。つい最近、恋人と別れたばかりだ。しかし、特段、感情を動かすことはなかった。今までの失恋も、恋人その人がその人であることが必要で、それが…

退院予定

退院の日程も決まって、看護師さんが「よく頑張りましたね」みたいなオーラを放ってくる。ぼくは何一つ頑張ってないし、何一つ良くなってない。口酸っぱくこんなことを言うのはぼくと他人との間の認識の違いが恐ろしいからだ。どうせまた手首かどっかを切る…

悲鳴の説明

入院ばっかりして、暇にも慣れると安定して、安定にも慣れると不安定になる。安定は欲望を忘れることなのか、それとも欲望を持ち続けていられることなのか。どちらにしろ安定は色んな欲望を呼び起こして、ぼくを不安にさせる。ちゃんと生きれるかどうかなん…