反日常系

日常派

先生に渡したけどここに載せ忘れた手紙(12/5)

金曜日(12/5)

 


 9時すぐにバスに乗り、家に帰る。途中で銀行に寄り、メルカリ(メルカリモバイル、携帯料金を支払うため)に現金をチャージする。それでもう7000円消えた。

 家の郵便受けにはガス点検の更新だとか警察の居場所確認?(震災時に周る場所のマップを作りたいらしい)など、詐欺師がいなければすぐに返事をしていただろう些事が舞い込んでいた。別にいいけど……。

 すぐに煙草を吸い、吸った後に空気清浄機をつけ忘れたことに気付く。なんだか自分が何をしでかすのかわからないのが不安で、クエチアピンを2錠とコントミンを1錠飲んだ。風呂に入るのも面倒で、そのままメイクをして外に出る。人に会わない時ばかりメイクが成功する。

 立川に楽器を見に行く。マルチトラックレコーダーだ。マルチトラックレコーダー、MTRと呼ばれるそれは、多重録音ができる機械で、パソコンで音楽制作ができるようになるまではもてはやされ、パソコンの台頭で打ち捨てられた物だ。通販サイトでは2980円だった物が店舗だと1980円で、無駄にそれを買う。音楽を頑張りたい……。立川に合計40分もいなかったであろう。僕は前、彼氏と国立に住んでいたから、立川は見慣れていたのだが、今見てみると、その、繚乱とも言える猥雑さからは、退屈しないで済む物ならなんでもありそうに思える。

 電車に乗って、ギターの改造の相談のために高田馬場へ向かう。

 改札を抜ける一匹の俺は修羅である。頭の中渦巻いてるポエム。僕は高田馬場の改札を抜けて、海賊言語を理解していないことに緊張している。当たり前だけど12月は寒い。11月のことはうまく思い出せない。海賊言語を理解してないけど、街は平凡なやり方で平凡を嫌う平凡な死にたがりで溢れていたから、僕は簡単に紛れ込めたみたい。もうすぐリキッド・レインボウがやってきて、僕たちみんなを助けてくれたらいいのに。

 高田馬場の楽器屋へはギターの改造の見積もりを頼みに行った。別になければないでいい機能だ。説明すると、ギターのアウトプットの前に1ループのスイッチャーをつける改造だ。僕のギターにはアンプが付いているから、それにもスイッチャーが効くとありがたい。理解されないのに趣味の話になると多く喋ってしまう。楽しいなあ。スイッチャーの中に水陸両用のファズを入れて、ちょっと死んで生き返るくらいじゃ騒がねーようにしたい。

 横になることすら叶わないであろうほどギターが立てられた部屋の隅のソファーに座る。2人がけだが2人で埋まっているところはほとんど見ない。一回、大学生カップルが座っているのを見たくらいだ。僕のギターを見て、彼女が「あれジャガー?」と聞き、彼氏が「そうだよ」と言った。ムスタングなんだけどな。まあ自認と他者からの見え方が違うのはよくある話だ。

 歳を追うごとに偏屈そうな見た目になっていく店主(おそらくそれはパーマと髭のせいでそう思ってしまうだけだろう)に僕は要領を得ない説明をした。彼はよくわからない顔をしながら、40分程度ギターを弄っては僕に不可解な専門用語で要望を問いただした。結局、「DEVOがギターにエフェクター付けてたじゃないですか、あれやりたいんですよ」と言うと、ようやく我が意を得たようで、「あー、あれ、かっこいいすよね」と笑った。彼が笑ったのを久しぶりに見た。僕は時計を見ながら、病院に遅れない時間のことを考え、改造料金があまり高くならないことを祈った。祈りは届いた。良かった。

 


 電車に乗りながらスイトウチョウ?のために家計簿アプリを入れる。家計簿アプリには「趣味」という金銭の使い方のジャンルがなく、もしかすると趣味にお金を使うというのは異常なのではないかと思えてきた。

 自由が丘は本当に嫌な気持ちになる街だ。おしゃれぶったドーナツ屋に並んでいる人間が全員揃いも揃ってスマホを弄っていて、寒空の中で下を向いているやつらのどこがオシャレなのだと悪態をついた。たまに住宅街などを背景にして、ポーズを取った女性を撮っているアマチュア・カメラマンもいる。他人の住居をおしゃれだと思うのはいいが、自分の自宅がそれをやられたら嫌だろうなと思う。

 病院に着くと、「入院中の患者は自費診療になること」を聞かされる。まあいいや。自分を嫌いになることよりはずっとマシだ。自費診療で15000円が20000円になる。痛い出費だが、仕方ない……5000円で希死念慮が消えるなら随分安いから。今病院でここの文章を書いている。あえて言えばオカマたちが待合室に集っている。大体みんな背筋を丸めて哀しそうな顔をしている。背筋を丸めずに済んでいるのは若く美しいオカマだけだ。中年の多い時間なのだろう。助かった。若く美しいオカマを見ると、自分は何故そうなれないのだろうと死にたくなる。年老いたガリガリの老人が、ふりふりの服を着て待合室に入ってくることもある。僕はそれを見ると、未来を見せられたような気分になって、それでもやっぱり死にたくなる。だから僕はスカートなんて履かない(履けない)。笑われるのに慣れるほど、僕はまだ世の中に慣れていないから。不安になってクエチアピンとコントミンを飲む。

自主規制

 ジェンダークリニックの椅子で、間を空けて隣のカップルが「もう一時間待ってるの〜?」と喋っていて、僕はこれはかなり時間がかかりそうだぞと思った。そもそも、ジェンダークリニックにカップルで来ているやつ(3回に2回くらいは見る)は何が目的なのだろう。観光? 自分の口紅がくいだおれ人形のそれになっていなければいいけど。わざわざなんもなく、オカマくらいしかいないところで喋り声がすると、自分のことを笑っているんじゃないかと思えてくる。

 病院の待合室に置かれたファッション雑誌はジェンダー系の機関誌か、ティーンネイジャー〜25歳くらい向けのファッション雑誌だ。スカートを履けない僕などは、こういうものを参考にする気持ちがわからないのだが、彼ら(彼女ら)は参考にするのだろうか。かわいらしい服を着てみたい気持ちはあんまりない。でもかわいらしい格好をして褒められたい気持ちはある。自分の中の女性性を許されたい。しかし、「君は本当は女の子なんだもんね」などと言われて、女性らしさを強制されることもやっぱり嫌だ。僕は美しいものに囲まれていたい。ユーストマスカビオサ、蛙、鯉、クラゲ、ハートのマーク、猫、あと背中に刻んで名前の忘れてしまった花、エフェクターのスイッチ、雲に隠れる太極図、リボン、牡丹……自分の肌に入れたタトゥーには意味はない。意味はないけど好きだ。好きなものに囲まれていたい。それが女性らしい物かわいらしい物が好きなんだねと言われることもあるけれど、僕の中ではそれらに男性名詞女性名詞の区別はない。

 


 診察を受ける。3ヶ月以上診察の間が空いてしまったため、初診扱いになり、診察代金が3000円から8000円に跳ね上がる。血液検査は次回に回してもらった。合計26000円。、仕方ない……仕方ない……そう思い込むしかない……。生活ができない……。

自主規制

 その後に女性ホルモンの注射を臀部に打ち、「臀部に注射を打たれて液体を注入されて女性になるなんて全く気の利かないメタファーだ」と思う。

 


 メルカリから通知が来る。「あなたの携帯が古過ぎて携帯料金の支払いができていません」だからそれをどうにかしようと言うのに……。仕方なく、安いタブレットを買う。6000円……すみません。それを受け取るためにまた外泊をお願いしたいです。