反日常系

日常派

日記

 眠れる日と眠れない日が交互に来る。一日眠れない日があって、その疲れで翌日は眠れる。その次の日は疲労の蓄積がないので眠れない。以後繰り返し。そう言った興奮、鎮静の右往左往の中で、無駄な夜中ばかりを浪費している。テレビでもあったら流しっぱなしにできるのでいいなと思いながら、受動する為に能動的に金を払うのはなんか癪とも考え、ただただぼんやりしている。

 もうここ数時間は眠れる見込みがないと言うくらい興奮していると、興奮を冷ますために散歩をしようかと思いつく。実際に散歩をするかしないかは日のだるさによって変わるが、昨晩は散歩をした。マスクをかけ、イヤホンを両耳に突っ込むとズボンを履いて外に出る。

 いつもの散歩コースは隣駅と最寄り駅の中間の大きめな公園に行き、公園を一回りして帰るというものだ。公園は草木が生い茂り、イヤホンを外すと鈴虫がコロコロと鳴いているのがわかる。眼鏡をかけていないせいか、湖に設置された柵や草木や花壇がうずくまっている人間に見え、怯える。それが人生の暗喩のようにも思えるが、現世とは人生の暗喩で構成されているのであり、何かを人生の暗喩に思うのは陳腐を超えた、至極当たり前のことなのだ。

 

 朝方にようやく眠り、昼頃に目覚める。二日連続で図書館に行く。昨日、会員証の再発行の為に図書館に行くと、当日中の再発行は無理で、翌日以降にまた図書館に来て再発行の手続きをしてくれとの事だった。司書はどれも似たような顔ばかりなので、受付をしている司書の顔を見ながら「昨日の司書に似ている」と思う。思いながら、今日の司書が昨日と全く同じ人物である可能性を消しきれない。うずらの卵ほどの眼鏡のレンズを見ながら、昨日はどのくらいの大きさのレンズだったかを思い出せない。そんな些細な事が耳鳴りのように気になるので、普段から他人を気にして生きていないことを後悔する。

 

 髪の毛がいい加減無作法に伸びまくっている。脱色した髪はその放置された時間を語るように黒が目立つ。自分で切った前髪が、伸びた他の部位と不調和を主張している。何となく髪をアッシュにしたく、画像検索をしているうちに青にしたくなる。すぐさま美容院の予約を取る。

 ネットニュースを読んでいると、こういう文章があった。

「緊急事態宣言下の平日の夜、新宿TOHOビル周辺を訪れてみると、ピンク、赤、青色の髪をした、明らかに異質な風貌の若い男女の一群がたむろしていた」

 ピンク、赤、青色の髪をしているのは「異様な風貌」らしい。俺は二十六になるのにいい歳こいてなにをやっているのだろう。いつまでも若いつもりか。若作りとは能動的なものではなく、歳に合った装いをアップデートすることを怠ったせいなのだろう。自分の暮らしの範疇から離れた、(その人にとっては)新しいものを「異様」の一言で片付けるその解像度を疎ましく思いながら、少しだけ傷ついた。