反日常系

日常派

唾を吐く。ゲロも吐く。煙も吐く

 吐き気が鮮明になるにつれて、体のどこか一部分も針のような実存を主張してくる。飯を食えば茶褐色の液体に変わってしまうので、飯を食わずに煙草を喫む。煙草を灰皿に押し付けて、逃げ惑う火種を几帳面に潰していくと、もう胃の中には吐く物なんてひとつもないのに吐き気が復活する。僕はこの吐き気がタール、ニコチン、燃焼促進物のどれかが原因としてのさばっているのだろうと思って、くしゃくしゃに潰したセブンスターのソフトを睨むが、健康への警告然とした落書きがうるさくて敵わない。空腹は感覚を鋭敏にするが、知能を鈍感にする。もし僕が一人の物書きだったなら、美味そうにもう一本と火をつけくたばっていくのだが、生憎僕はニートで、ニートにはペダンティックスノビズムキッチュさを披露する場所はない。そんな場所があれば、僕は自意識過剰で鍛えた演劇性を発揮するだろう……。空腹に耐えきれずパンを食べる。食べたパンが吐瀉物に変わり、トイレに間に合わず、ゴミ箱の中の精子を拭いたティッシュたちの上に吐き散らかした。吐き気を紛らわすためにやたらと唾を吐く。そして嘔吐く。

 死にたい。毎日精子の死を願いながら、確認する気持ちでポルノ動画を見る。毎日精子が出る。くそったれ。美しくなりたい。細い脚で丈の短いワンピースを着て、忘れられた傘のような存在感を誇示したい。もう今年二十七だ。いい加減もう無理だ。けれど、諦めることは悟ることよりもっと難しい。もう少しマシな家に生まれていたらとか、もう少しメンタルが健康だったらとか、たらればが無限に湧いて出るが、そんなことを語る資格すら時間に奪われていく。昔はセクシャルマイノリティを多くフォローしていて、時間が経つにつれて、俺より若い人々が性別適合手術を受けていった。世間の差別をどうこうするより、人間の貧富をなんとかしてくれよと思う。考え方の貧富も、金銭面の貧富も。そいつらは目的を達成してツイッターを辞めた。そして何人かは人生も辞めた。満たされないものに執着している方が幸せかもな。吐き気を誤魔化すために唾を吐いた。

 恋愛に興味があれば、少しは使える麻酔が増えていたんだろう。何人と付き合ったか忘れた。一人も顔が思い出せない。今では付き合いたいとも思わない。運のいい時に見る淫夢のヴァギナのディテールに貢献していただいてると思うと感謝しかないが。露悪か。それしか残されていないのだが。あまりにも言わなくてもいいことを書いた。少しでも心地良い内容になればいいのに。そう書かせる現実があればいいのに。嘔吐く。唾を吐く。今度は上にでも吐いてみようか?