反日常系

日常派

ある人はハルヒ、ある人は薬、ある人は神

 眠り、朝が来れば起きる。ニコチンの不足で重い頭を起こし煙草を喫む。紫煙でだるくなった体を布団に横たえると、布団を被り、そのまま二度寝した。

 三時間後、再び起きる。鬱らしき気分を鬱と名乗っていいのかすらわからないまま堪能する。鬱とは既になくしたものが高価に見えることであり、既になくしたものの数を箇条書きしてはその数が手首の傷といい勝負だと自嘲する。

 二件目の精神科で「他の病院で処方されたけれど紛失してしまったんです」と嘘をつき貰ったベンゾジアゼピンをぷちぷちと出し、一気に飲むが、水道水の味気の無さに味蕾が麻痺し、言いようのない吐き気に襲われる。ウエルベックがインタビューで「彼ら(ドラッグをやっている連中)は周囲をはっきり認識できる状態から逃れようとしているのです。完全に明晰判明な状態は、生きることと相容れないから」と言っていた。正しい。僕がやっているのはドラッグではなくメディシンだが。周りを完璧に認識することは狂人への第一歩だ。そしてその道を歩ききったところに作家としてのスタート地点があるのだろう。

 また煙草を喫む。煙草は「吸う」という点で乳房と同じで、口唇期の欲望が大人になってから発現したものだと、血で書いた文字から犯人を推理する名探偵のような顔で、精神科医ではない誰かが言う。フェチズムなのか助けを求めてなのか、J-stageやciniiで退行についての記事を乱読したことがある。精神科医が書くには「声が高く戻る」「陰毛を剃る」「性自認の混乱」その他エトセトラエトセトラが退行の諸症状である。僕は精神科医が書いた退行の諸症状に完璧に一致している。高い声で喋れはしないが喋りたいと思うし(それが女声になれたらいいと思う)、男性器がよりグロテスクに見えることを避けようと陰毛を剃っているし、と、他の理由を探してとってつけても、医者からは症例Aでしかないんだろうなと思う。陰毛はわからんが、声が高調に戻るだとか(退行から脱したことによって)性自認が確立しただとかを見ると、性同一性障害が児戯のように思われているように思える。いい気はしない。

 

 薬をいつ飲んだのかも忘れた。Twitterの記録によると昨日の十一時三十五分らしい。それから何をしていたかが全く記憶にない。睡眠をとった記憶も、起きていた記憶もない。ただ、千鳥足しか効果がなく、「とてもつまらない」と思った記憶しかない。面白い酩酊をしたい。せめてこの世より面白い世界に行きたい。この感情はライトノベルを貪り読む中学生と何一つ変わらない。文字列を追いながら涼宮ハルヒやシャナを待つその気持ちと、錠剤を取り出しながら快楽を待つその気持ちと、聖書をノンブルさえ暗記し神父の教えを先回りして口パクで合わせるその気持ちに、なんの違いがあるのだろう。オタクよ(こう言い始めるのは自分はオタクでさえないと思っているからに違いないのだが)、健康でいてくれ。新規アニメを見て、やべえやべえと言っていてくれ。それが君の辿り着く酩酊であり、君の辿り着くこの世より面白い世界なのだから。