反日常系

日常派

白髪が生えた

夜に思いつくものでろくなものはない。うつ病の変種であるノスタルジー。掃いて捨てるほどある思いはもう既に掃いて捨てたものが呪いの人形よろしく手元に帰ってきただけだ。外を吹き付ける風の音が白痴の弟の唸り声に聞こえる。昔の写真の背景から今はもう…

日記

喫茶店にいる。俺はだいたいはコーヒーと本、そして「ここ」ではないどこかに行きたいと思う時に「ここ」ではないと感じられる場所さえあれば幸せになれる。特別じゃない場所はどこであろうと「ここ」である。家から近い喫茶店でも、条件さえあれば「どこか…

あの物語の主人公になりたい

することがない。しなければならないことは数え切れないほどあるが、目下締切を持って対処せねば危機が迫るという形で自分の前に現れる物事はない。飯を食うのも義務感や慣性の力によるもので、美味いと思うものより食べやすいと思うものを食べる。本を読ん…

文章を踏み外さないよう

夜ごとに発見し、朝ごとに紛失する、簡単な希死念慮を発見した。自分の身を切り裂くような(これは自分自身の手首と首を切り裂いたことのある俺に言わせてもらえば、陳腐なこの表現はもう錆び付いているし、あまりに感覚と言葉の指す範囲がかけ離れすぎて、…

頭痛回想録

フリージャズの痙攣したサックスソロのような頭痛が、黒すぎる雨雲をベースラインにしてやってくる。俺の父親は酷い癇癪持ちだったが(そして俺の弟は酷すぎる癲癇持ちだ。この似ている文字列は全く韻を踏むことなく、つまり聴覚上になんの意味ももたらさず…

日記

夜中になれば死にたくなる。朝になれば甘すぎるコーヒーみたいにどろどろの頭で考えることすらおぼつかない。そういった日々の繰り返しの中(俺は何回日々の繰り返しについて書いているのだろうか)、少しはマシな言葉を並べられるのではないかと思ってブロ…

無題

死とはなにか、それをつぶさに鑑定し、言葉をあてがい、これではないあれでもないと言葉を放り投げては他の言葉を引っ掴み、ほとんど初歩の神学、もしくは阿呆の使う「哲学的」という言葉の指す範疇で大袈裟に悩んでは頭が鉛になったように感じる。死につい…

そこにあるだけの呻き

なんだか消えてしまいたい。そういった若さ故のイカロスにも似たタナトスを抱えたまま、腐っていくように日々を過ごしている。死にたくても腹が減る、そういった人間の原理の不足では人は落ち込まないようだ。腹が減った。飯を食う。 俺が一番困っているのは…

さよならではない

好きだった古書店が潰れた。ないものに現在形の「好き」は不似合いだということがなんとも言えず歯がゆい。好きだった古書店には、第一に好きな店員さんがいて、好きな店主がいて、前提として多くの古本があった。本が陽に焼けるほどの光は窓から入らない店…

特にタイトルなし

性欲がある。女性ホルモンを打つのをやめて四ヶ月経った。唾棄していた性欲を持ち直して、簡単に充足されない不足がついてまわる。もう二十五にもなるので、性欲からの潔癖症じみた逃避を続ける意志がなくなった。男性性へのイノセントな嫌悪も、なあなあに…

年齢

四捨五入したら三十歳である。二十四まではへらへらと生きてきたのだが、二十五にもなるといい加減成長することもなくなり、不承不承完成体であることを認めなくてはならなくなってきた。今では「(十の位を)四捨五入したら零歳です」と躊躇いなく言うこと…

あけましておめでとうございます

あけましておめでとうございます。特筆に値するめでたいことなんて一つもないために、ただの挨拶をする機会を恥ずかしがって逃し続けて、二十日にもなってしまった。冬場は夏場より調子が悪い。薬をたくさん飲んで、酔っ払いになってばかりいる。酔っ払いは…

もろびとひとりで

雪が影さえ落とさないクリスマス・イヴの日に、俺は実家にいた。特に暗い話題もない。したことと言えば、眠れない夜の供に頓服すべてを服用して記憶を消した程度だ。起きた時は布団の中だった。 クリぼっちという言葉がある。クリスマスに独りぼっちの人のこ…

在る阿呆の一日

今度は鬱だ。迷路を彷徨うように、同じ道にデジャヴを感じ、これでいいのかと悩んだりする。しかし、常日頃から自分が精神障害者なのか悩むことしきりなので、横たわって死にたいと思うこと、咳止め薬に助けを求めること、万々歳なのである。メンヘラに憧れ…

傷跡の話

タトゥーを入れた。一回目だと感慨もひとしおなのだが、もう五回目なので、図書館に本を借りに行くような気軽さで入れた。左脇腹に伸びをしている猫。とても気に入っている。あとはうまくアフターケアをできるかどうかなのだ、が。 タトゥーというものは結局…

僕と鼠の小説の中

セックスも人の死もない日常の中を、すいすいと泳ぐようでいて、あてもなく流れに逆らって現在地を変えない魚のように過ごしている。今日に波はない。大いに結構なことだ。セックスを語ることは非常にダサいことだ。かといってセックスがいかに生活の中にな…

シンデレラストーリーに憧れて

何もしていない。これまでにいったい何千文字、何もしていないと言うことに使っているんだろう。今日は本当に何もできなかった。ここ数週間、本を読むことや歌うことができていたので、何もできない今日が何倍もの自己嫌悪になって襲いかかってくる。何もで…

悪魔もいない12月

何もなく十二月を迎え、時間の経過の早さは例のウイルスの流行を参照するまでもなく、人々の体感に訴えかけている。俺はベランダでひねもす煙草を吸っているか、寒さを理由に布団にくたばるようにのたばっている。天使さえバスケットボールをしないであろう…

考えられなくなること

冬の影が朝方と夜に伸びて、暖房をつけた。本を読んでも、アニメを見ても、ギターを弾いても、鬱になって横たわっている瞬間には勝てない。昔に比べて活動的な人間になっても自己嫌悪が心臓をつつく。慣れてしまえばすべてが当たり前になって、嫌いになって…

散歩思案

去年か一昨年と同じ道を歩く。いつも通り散歩をして暮らしている。去年はスマホに気を取られて気付かなかった落葉に気付いて、気付くという行為そのものの高揚感に包まれる。木々は無鉄砲とも浅はかとも言えるスピードで葉っぱを降らしているのに、いつまで…

通院先がようやく決まる

ようやく通院先が決まる。それだけでとても嬉しく、嬉しいと思うことの程度の低さ、すなわちいかに日々が低空飛行で空と地面をすり合わせてなあなあにしているかについてを考える。病状の悪さ。人から人以下の扱いを受ける半死人。人の扱いを受けるだけでそ…

医者に断られる

朝っぱらから電話。片っ端から予約を取ろうとしていた精神科から患者が多くて受け持てないとの返答を受け取る。次をあたれ。その返答から想像しなくていいことを想像して、なにか他の理由があるのではないかと勘繰る。どうして、症状があるというのに病院に…

写真なき近影

出来事を一から説明するのが苦手だ。怒った時に気の利いた文句が思いつかないのも短所だ。月曜日、医者に行ったらこっぴどい態度で追い返される。そこから紹介してもらった病院に予約の電話を入れるも、受付のババアは話を聞いてんだか聞いてないんだか役割…

ほとんどのはしがき

退院したが、退院も入院もなにも違いあるめえと思って更新をしなかった。周りは「退院したら知らせてくれ」と言っていたので、知らせると、うち二人が「お勤めご苦労様です」と言ってきたので、苦笑にも似た微笑で画面を見つめた。まあ、身体を悪くしたわけ…

日記

十六時に病棟の鍵がかかる。まあ、いつもかかってて、許可制で外に出るのだけれど、その許可も取れなくなる。いつも、この鍵がかかると安心する。今日は余計な飲食や飲酒をしなかった。今日は過量服薬しなかった。いろんなことが禁止されることで一日が確定…

網目から転げ落ちて

退院の目処が立ったので、通院先に電話をした。予約を取るためだった。 「たなかさん、どうなされました?」 「いや、退院の目処が立ったので通院の予約をしようと思ったんですけど」 「たなかさん今医療保護入院してるじゃないですかぁ……」 話を聞いていく…

髪を切りました

インコのような顔で外を見る度に看護師が「タバコ外出ですか?」と聞いてくる。俺は煙草を喫まないと何度も言っているのに。おそらく、ヤニ切れの呆けた顔に俺の顔は似ているのだろうと思う。 俺、という一人称に背伸びした少年の気持ちになる。俺という一人…

二つの掌編

エレヴェーターミュージック・フェスティバル 青年がマイクロフォンの調子を、教えられた奇妙な手筈で確かめている。彼はエレヴェーターミュージック・フェスティバルの運営スタッフであった。 その催しは彼の住んでいる町が一年に一度、張り切って行う祭り…

季節に敏感であったりなかったり

夕方のチャイムが一時間早まったことを、病室の二割も開かない窓越しに知った。精神をおかしくしていると様々なことに気付かなくなる。最低なのは精神をおかしくしていることすら気が付かないことだ。ぼくは親に「もうおかしくならないよ。大丈夫」と言う度…

生きかけたくもなかった

リストカットをした。血がぴゅーと噴き出すまでいったのに、死ぬのが怖くて生き延びてしまった。生きるのだって死ぬほど怖い。死ぬことは生きることと同じくらい怖い。結局はどちらにしたって怖い。金がないこと、自分に金を稼ぐ能力がないこと、人の補助が…